農業はAI導入補助金の対象になります。個人農家も農業法人も、中小企業の要件を満たせば申請できます。ただしトラクターなどの農業機械は対象外で、この制度が支援するのはソフトウェアの導入です。機械を買いたい場合は別の制度になります。本記事では、対象になる条件と使えるソフトの種類を整理します。
※ 2026年9月時点の情報です。公募回ごとに要件が見直されるため、申請前に最新の公募要領をご確認ください。
この記事でわかること
- 農業が対象になる条件
- 対象になるソフトと、ならないもの
- 個人農家と農業法人での違い
- 農業機械を買いたい場合の代わりの制度
農業が対象になる条件
業種として農業が除外されることはありません。満たすのは規模と、導入するソフトの2点です。
事務局が公開している申請要件では、業種ごとの資本金と従業員数の基準が示されています。農業は「その他の業種」として扱われるのが一般的です。
個人農家も対象です。法人でなければ申請できないという制度ではありません。ただし直近の確定申告書類が求められるため、就農して間がない場合は書類が揃いません。
確定申告を一度も行っていないと、事業の実態を示す書類がありません。新規就農の直後は、書類要件で止まることを前提に計画してください。
農業で対象になるソフト3分野
栽培管理・出荷販売・経営会計の3つが中心です。いずれも記録と集計を扱います。

| 分野 | 対象になりやすい例 |
|---|---|
| 栽培管理 | 生育記録、作業日誌、圃場ごとの施肥・防除履歴 |
| 出荷・販売 | 受注管理、出荷伝票の作成、直売所やECとの連携 |
| 経営・会計 | 部門別の収支、作物ごとの原価計算 |
記録を紙でつけている農家ほど、効果が数字で出せます。作業日誌を手書きし、あとでExcelへ転記している場合、その転記そのものが無くなります。
生育記録は、産地の証明やGAP認証の場面でも使われます。記録を残す作業が、販路の条件を満たす作業と重なります。導入の目的を1つに絞らなくてよいのが、この分野の利点です。
栽培管理ソフトを選ぶときの3つの基準
現場で使えるかどうかが、機能の多さより効きます。
1つ目は、圃場で入力できるかです。事務所に戻ってからまとめて入力する運用だと、紙に書いてから転記する手間が残ります。オフラインで入力できるかを、契約前に確かめてください。
2つ目は、作物と作型に対応しているかです。水稲向けに作られたソフトを施設園芸で使うと、項目が合わずに空欄が並びます。
3つ目は、入力する人が複数いるかです。家族経営でも、作業する人ごとに記録が分かれると集計できません。誰のIDで入力するかを先に決めてください。
私たちが農業法人のご相談を受けたときも、機能を比べて選んだソフトが、現場で電波が届かず使われなくなった例がありました。導入の前に、実際の圃場で試させてもらうのが確実です。
対象にならないもの
農業機械は対象外です。ここが最も誤解される点です。
関連する内容として農業の倉庫投資は建物費NGも公開しています。

トラクター、田植機、コンバイン、選果機。いずれもこの制度では補助されません。ハウスや倉庫といった建物も同様です。
自社で作ったExcelの管理表も対象外です。補助されるのは、事務局に登録された製品だけです。現場で評判のよいソフトでも、登録がなければ1円も出ません。
タブレット端末は、対象ソフトと同時に導入する類型に限って認められます。圃場での入力に使う端末であっても、単体では申請できません。
農業機械を買いたい場合
別の制度を検討してください。設備投資を対象とする補助金があります。
ものづくり補助金(現在は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金)は、機械装置を対象に含みます。精米機や選果ラインなど、専用設備の導入で使われています。
農業での採択事例はものづくり補助金は農業で使える?にまとめています。汎用品は対象外という線引きがあるため、機種選びの前に確認してください。
自社が対象になるか、3分で判定できます。
3分の適性診断(無料・8問)補助額と自己負担の目安
補助率は1/2以内が基本です。全額が出る制度ではありません。
50万円の栽培管理ソフトなら、補助されるのは25万円で、残り25万円が自己負担になります。消費税は補助の対象外のため、実際に支払う額はさらに増えます。
| 項目 | 金額の例 |
|---|---|
| ソフト利用料(税抜) | 50万円 |
| 補助額(補助率1/2) | 25万円 |
| 自己負担(税抜分) | 25万円 |
| 消費税(自己負担) | 5万円 |
採択されても、先に全額を支払う必要があります。入金は実績報告の審査が終わってからで、発注から半年以上あくことも珍しくありません。収穫期の入金と重ならないよう、時期を確認してください。
農業は収入の時期が偏る業種です。立て替えの期間に手元資金が薄くなる月を先に洗い出しておくと、無理のない導入時期が見えてきます。
個人農家と農業法人での違い
必要書類が変わります。制度の対象になるかどうかは、どちらも同じです。
| 項目 | 個人農家 | 農業法人 |
|---|---|---|
| 事業の証明 | 確定申告書の控え | 決算書 |
| 登記簿謄本 | 不要 | 必要 |
| GビズID | プライムが必要 | プライムが必要 |
| 納税証明書 | 必要 | 必要 |
法人成りを予定している場合は、申請の時期に注意が要ります。申請中に法人化すると名義が変わり、手続きをやり直すことになります。
集落営農組織や農事組合法人の場合、法人格の有無で扱いが変わります。自分たちがどの区分に当たるかを、支援事業者に確認してから進めてください。
必要書類の詳細はAI導入補助金の必要書類|法人が用意する5点と取得先で確認できます。
申請前に確認する4ステップ
ソフトを先に決めてください。順番を逆にすると手戻りが出ます。

- 自分が個人か法人か、要件の区分を確認する
- 使いたいソフトが事務局に登録されているか調べる
- 登録があれば、そのソフトを扱う支援事業者に相談する
- GビズIDプライムを取得する(2〜3週間かかる)
GビズIDだけは今日申請できます。他の準備と並行して進めてください。発行を待つ間に、ソフトの比較と見積の取得が終わります。
私も相談の現場で、申請直前になってGビズIDが未取得だと分かり、公募回を1つ見送った事業者を何度か見てきました。順番の問題で機会を失うのは、もったいない話です。
農繁期を避けて申請する
書類の準備には、まとまった時間が要ります。農業では、これが現実的な制約になります。
事業計画書を書くには、いまの作業時間を把握する必要があります。田植えや収穫の最中に測るのは現実的ではありません。閑散期に測っておき、公募が開いたら提出する段取りが向いています。
公募が開いてから締切まで1か月ほどのことがあります。その期間に書類をゼロから集めるのは困難です。先に準備しておき、公募が開いたら出すだけの状態にしてください。
作業時間の実測は1週間分で足ります。作業日誌をつけるのに毎日何分かかっているかを、ストップウォッチで測るだけです。この数字が事業計画書の説得力を決めます。
測るのは3つで十分です。作業日誌の記入時間、出荷伝票の作成時間、月次の集計にかかる時間。この3つが減れば、導入の効果として説明できます。
家族で分担している場合は、人ごとに測ってください。代表者だけの時間で計算すると、実際の削減量より小さく見積もることになります。配偶者が事務を担っている経営体では、そちらの時間のほうが大きいこともあります。
測った記録は、そのまま計画書の根拠として使えます。手書きのメモで構わないので、日付と時間を残しておいてください。
出荷・販売のソフトで効果が出やすい場面
直売所やECを併用している経営体ほど、導入の効果が数字で出ます。
出荷先が複数あると、どこに何をいくらで出したかの管理が煩雑になります。市場・直売所・ネット販売・契約栽培が混在すると、同じ作物でも単価と伝票の形が変わります。
| 出荷先 | 手作業で起きること |
|---|---|
| 市場 | 伝票の転記と、精算書との突き合わせ |
| 直売所 | 値付けシールの作成と、売れ残りの回収記録 |
| EC・宅配 | 注文ごとの送り状作成と、在庫の照合 |
これらを1つのソフトでまとめると、転記そのものが減ります。事業計画書には「伝票作成に週5時間かかっていたものが2時間になる」のように、削減時間を数字で書いてください。
数字は推計で構いませんが、根拠は書いてください。「直近1か月の伝票枚数から算出」と添えるだけで、審査での見え方が変わります。
経営・会計ソフトは作物別の原価が見える
どの作物が儲かっているかを、感覚ではなく数字で把握できます。
対象になる範囲はAI導入補助金で会計ソフトは対象?で整理しています。
作物ごとに種苗費・肥料費・燃料費・人件費を分けて集計すると、面積あたりの収益が比べられます。作付けの判断材料になるのは、この数字です。
手作業では、資材をまとめ買いした分を作物ごとに按分する作業が発生します。ここが最も時間を取られる部分で、ソフトに任せると按分の計算が自動で終わります。
補助金の申請でも、この分野は効果を書きやすい領域です。「月次の集計に8時間かかっていたものが2時間になる」という形で、削減が明確に示せます。
既に会計ソフトを使っている場合は、連携できるかを確認してください。原価管理だけ新しくしても、会計へ手入力で移し替えているなら作業は減りません。いま使っているソフトの名前を伝えて、データを受け渡せるかを聞いてから決めてください。
青色申告の記帳と兼ねられるソフトもあります。申告のための記帳と経営分析が1つにまとまると、期末にまとめて入力する負担が消えます。
対象外になりやすい2つのつまずき
発注の時期と、ソフトの登録。この2つで落ちる事業者が最も多くなります。
交付決定より前に発注・契約・支払いをすると、要件を満たしていても対象になりません。「先に導入して、後から申請する」は通りません。
もう1つは、登録されていないソフトを選ぶことです。農業向けの管理ソフトには、地域のJAや農機メーカーが独自に提供しているものもあります。それらが事務局に登録されているとは限りません。
不採択になる理由の全体像はAI導入補助金の不採択理由で整理しています。
自社が補助金の対象になるかどうかは、3分の適性診断(無料・8問)で確かめられます。登録は不要で、その場で点数が出ます。
導入した後に求められること
採択されても、使っていなければ報告が通りません。
実績報告では、契約書・納品書・請求書・振込の控えに加えて、導入したソフトを実際に使っている証拠を求められます。画面の写しや入力の履歴などです。
農業では、繁忙期に入力が止まりがちです。中小企業庁が示す中小企業の定義に当てはまる規模の経営体では、入力を担当する人が限られます。誰がいつ入力するかを決めてから導入してください。
報告書の書き方はAI導入補助金の実績報告の書き方で手順ごとに解説しています。提出期限を過ぎると受給できなくなるため、交付決定の時点で期限を確認しておいてください。
まとめ: ソフトか機械かで、使う制度が変わる
農業がAI導入補助金で失敗する最大の原因は、機械を買おうとして対象外になることです。この制度が支援するのはソフトウェアで、トラクターや選果機は含まれません。
記録と集計をソフトに任せたいなら、この制度が合います。機械を買いたいなら、ものづくり補助金を検討してください。
どちらを使う場合も、GビズIDは共通で必要です。発行に2〜3週間かかるため、制度を決める前に申請しておいて損はありません。
