ものづくり補助金は、クリニックでも申請できる補助金です。ただし対象になるのは個人開業医に限られ、医療法人の形態で経営しているクリニックは原則として対象外です。「補助金を使って新しい検査機器を入れたい」と相談に来る院長の多くが、この法人形態の壁を知らずに準備を進めています。本記事では、対象になる法人形態と投資の範囲、対象になりやすい医療機器の具体例、医療業の中小企業者基準を2026年9月時点の情報で整理します。
※ 2026年9月時点の情報です。ものづくり補助金は第23次公募の内容を基準にしていますが、第23次を最後に新事業進出補助金と統合され、後継制度の公募が始まっています。今から申請する場合の扱いは本文で解説します。
この記事でわかること
- 医療法人が対象外になる理由と個人開業医との違い
- 保険診療ではなく自由診療の投資が対象になる仕組み
- 対象になりやすい医療機器の具体例
- 医療業の中小企業者基準と補助率・上限額
ものづくり補助金はクリニックで使えるのか|医療機器と医療法人の線引き
ものづくり補助金は個人開業医のクリニックが対象で、医療法人は原則として対象外になります。制度名から工場や製造業を連想し、医療機関には無関係だと考える院長に何人も出会ってきました。
補助金プラスが解説する医療法人の対象性によると、医療法に基づいて設立された医療法人の事業は、補助金の政策目的や支給要件と一致しないため対象外とされています。一方、個人事業として医療業を営む開業医は対象になります。
私も相談の現場で、医療法人化した後に補助金の話を持ちかけられる院長に出会うことがあります。話を聞くと、法人化前の個人事業の頃なら申請できた案件だったケースも珍しくありません。法人形態の確認は、投資の中身を検討するより先に済ませておく必要があります。
保険診療は対象外|自由診療・新規メニューの投資が対象になる仕組み
公的医療保険の診療報酬と重複する投資は対象外で、自由診療や新規メニューの設備投資が対象になります。既存の保険診療で使う機器の単純な入れ替えは、この重複ルールに該当します。
公的医療保険・介護保険からの診療報酬・介護報酬と重複または類似する内容の事業は、ものづくり補助金の対象になりません。既存の保険診療機器を同等品に更新するだけの投資は、この条件に該当し対象外になります。
対象になりやすいのは、健診・人間ドック・美容医療といった保険外の自由診療メニューを新しく立ち上げるための機器投資です。超音波診断装置や内視鏡など、検査精度を高める機器と専用システムを組み合わせる投資も対象になり得ます。
判断の起点は「その機器が生む収益は、公的医療保険からの診療報酬か、それとも患者が自費で支払う収益か」という一点です。同じ超音波診断装置でも、既存の保険診療の検査枠を維持するための単純更新なら対象外になり、人間ドックなど自費メニューの新設に使うなら対象になり得ます。機器の型番や性能ではなく、収益の出どころで線引きされる点を最初に押さえておく必要があります。
事業計画書には、新設する自由診療メニューの想定患者数や単価、既存の保険診療とどう住み分けるかを具体的に記載します。保険診療の枠を減らして自由診療に置き換える計画ではなく、既存の診療体制を維持したまま新しい収益の柱を追加する計画であることを示すと、審査側にも投資の趣旨が伝わりやすくなります。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金で対象になる医療機器の早見表
審査で評価されるのは、既存機器の更新ではなく新規メニューにつながる医療機器への投資です。保険診療の枠内にとどまる投資は、生産性向上や新事業性の観点で評価されにくくなります。
| 経費区分 | クリニックでの具体例 | 備考 |
|---|---|---|
| 機械装置・システム構築費 | 自由診療用の検査機器、画像診断のデジタル化システム | 全申請枠で計上が必須 |
| 技術導入費・専門家経費 | 新規自由診療メニューの構築を外部専門家に依頼する費用 | 機械装置費と組み合わせて計上 |
| クラウド利用費 | 検査データを蓄積・解析する診断クラウドの利用料 | 単独では主経費にできない |

「古くなった機器を同じ性能のもので入れ替えたい」という理由だけの投資は、対象経費として組み立てられません。新規メニューや検査精度の向上と結びつけて初めて、投資の位置づけが明確になります。
予約システムやレセコンだけならIT導入補助金で足りる
電子カルテやレセコン、予約システムのようなソフト単体導入はIT導入補助金、医療機器の新規導入はものづくり補助金が向きます。どちらもクリニックのシステム投資を支援しますが、対象経費の考え方が異なります。
あわせてクリニックのIT導入補助金|予約システム選びの5つの視点もご覧ください。電子カルテ・レセコンといったソフトウェア中心の投資を扱っています。
あわせてAI導入補助金はクリニックも対象?電子カルテ3分野の補助額もご覧ください。同じ医療機関向けでも、対象になる制度が異なる理由を整理しています。
自由診療用の検査機器を一から構築する場合や、画像診断システムを機器とセットで導入する場合はものづくり補助金が向きます。一方、予約管理アプリや電子カルテなど既製ソフトウェアを単体で導入する場合はIT導入補助金のほうが手続きが軽くなります。
私も相談の現場で、予約システムを入れたいだけなのにものづくり補助金を検討していた院長に出会ったことがあります。投資の中身がハード込みの機器構築かソフト単体導入かを先に切り分けると、制度選びで迷わずに済みます。
資本金5,000万円・従業員100人|医療業の応募資格ライン
医療業はサービス業に区分され、資本金5,000万円以下または従業員100人以下のどちらかを満たせば中小企業者に該当します。小規模事業者は従業員5人以下が基準です。
関連して、ものづくり補助金は小売業に使えない?対象になる投資の見極め方もあわせてご確認ください。 | 業種区分 | 資本金の額 | 従業員数 | |:--|:--|:--| | サービス業(医療業含む) | 5,000万円以下 | 100人以下 | | 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 | | 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
中小企業庁が公開している業種別の定義によると、サービス業は小売業より従業員数の基準が広く設定されています。詳しい業種区分の考え方はものづくり補助金は資本金オーバーでも対象?中小企業者7区分でも解説しています。
厚生労働省の医療施設動態調査(令和8年3月末概数)によると、全国の一般診療所数は10万5,631施設に上ります。同業の開業医が増えるほど、自由診療メニューによる差別化が経営の分かれ目になります。
従業員数で決まる段階別の補助上限額はいくらか
補助上限額は従業員5人以下で750万円が目安で、規模が大きいほど段階的に上がります。補助率は中小企業が1/2、小規模事業者が2/3です。個人開業医の多くは従業員5人以下の区分に当てはまります。
| 従業員数(革新的新製品・サービス枠) | 通常上限額 | 大幅賃上げ特例 |
|---|---|---|
| 5人以下 | 750万円 | 850万円 |
| 6〜20人 | 1,000万円 | 1,250万円 |
| 21〜50人 | 1,500万円 | 2,500万円 |
例えば、自由診療用の検査機器と診断システムの構築費用が600万円の投資を行う場合を考えます。補助率2/3の小規模事業者なら400万円、1/2の中小企業者でも300万円が補助される計算です。自己負担額を早めに試算しておくと資金計画が立てやすくなります。
個人開業医の場合、常時使用する従業員が5人以下であれば小規模事業者に該当し、補助率2/3が適用されるケースが多くなります。看護師やスタッフの人数が少ないクリニックほど、同じ投資額でも自己負担が軽くなる計算です。従業員数の数え方は雇用契約の実態で判断されるため、非常勤スタッフの扱いに迷う場合は事前に確認しておくと申請時の手戻りを防げます。
ものづくり補助金の新事業進出枠で医療機器は買えるか|枠の選び方
既存の自由診療を強化する医療機器は革新的新製品・サービス枠、新しい診療分野へ出る設備は新事業進出枠です。統合後のものづくり補助金は3つの枠に分かれ、選ぶ枠で上限額が3倍以上変わります。
| 枠 | 向いている医療機器の投資 | 上限額(従業員5人以下) | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 革新的新製品・サービス枠 | いまある自由診療メニューを強化する機器 | 750万円 | 1/2(小規模事業者2/3) |
| 新事業進出枠 | 未実施の診療分野へ進出する設備一式 | 2,500万円 | 1/2 |
| グローバル枠 | 海外展開を伴う投資 | 2,500万円 | 2/3 |
上限額は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公式サイトによります。新事業進出枠とグローバル枠は従業員1〜20人がひとつの区分にまとまるため、少人数のクリニックでも上限額は下がりません。
迷ったときの判断はひとつです。いま提供している自由診療の質を上げる投資は、新事業進出枠には該当しません。新事業進出枠の要件が「既存事業と異なる新市場への進出」だからです。中小企業庁は統合後の事業概要を「技術的革新性のある製品・サービスの開発や既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出」と説明しています(中小企業庁)。
例えば、いまある美容皮膚科メニュー向けにレーザー機器を入れ替えるなら前者です。一方、自由診療をまったく行っていないクリニックが美容分野へ新規参入するなら後者を検討できます。第1回公募の応募締切は2026年9月30日18時、第2回は10月30日18時です。
個人開業医がGビズID取得から発注までに踏む4段階
個人開業医がものづくり補助金を申請するには、GビズID取得から交付決定後の発注まで4ステップで進みます。交付決定前に発注してしまうと補助対象外になる点に注意が必要です。

採択されても、交付決定の通知を受け取る前に機器を発注・契約してしまうと、その経費は補助の対象になりません。見積もりの取得までにとどめ、契約は交付決定後に進めてください。
申請でつまずきやすい失敗は3つあります。1点目は、医療法人化した後に個人事業の頃と同じ感覚で申請してしまうケース。2点目は、保険診療機器の単純更新を投資の中心に据えてしまうケースです。3点目は、採択の連絡を受けてすぐに発注してしまい、対象経費から外れてしまうケースです。
当社は登録支援事業者として、対象ツールの選定から申請書類の作成、採択後の実績報告まで一貫して支援しています。
弊社はMEO運用サービス「G-ran」で通算3,200店舗以上を運用してきました。クリニックを含む店舗ビジネスの投資判断に関する相談を数多く受けてきました。法人形態の確認や自由診療メニューを軸にした事業計画の書き方に迷う場合は、無料相談で投資内容を伝えてください。
補助金全般に共通する失敗パターンはAI導入補助金の申請に失敗する5つの原因と対策でも整理しています。
申請前に、院内で決めておくこと
ものづくり補助金は事業計画の中身で判断されます。機器を選ぶより先に、次の3つを院内で決めてください。
- その機器で何の診療を増やすのか(既存の診療の置き換えなのか、新しいメニューなのか)
- 誰が操作するのか(担当者を増やすのか、既存スタッフが兼務するのか)
- いつから収益が立つのか(導入から稼働までの期間)
1つ目が曖昧なまま申請すると通りません。「最新機器を導入して診療の質を上げる」だけでは、審査で見られる収益計画につながらないためです。
2つ目も見落とされます。操作に資格や研修が要る機器は、スタッフの確保ができていないと稼働が遅れます。稼働が遅れると、賃上げ要件の達成時期にも影響します。
計画は院長1人で書かず、実際に操作するスタッフに稼働までの期間を確認してから数字を置いてください。
まとめ: 「法人形態」と「自由診療」の2つを先に確認する
ものづくり補助金は、クリニックでも申請できる制度ですが、対象になるのは個人開業医に限られ、医療法人は原則として対象外です。保険診療で使う機器の単純更新も対象にならないため、自由診療メニューや検査精度の向上につながる投資として計画を立てる必要があります。
医療業はサービス業に区分され、小売業より中小企業者の従業員数基準が広いため、多くの個人開業医は資本金・従業員数のどちらの基準でも対象に収まります。ソフト単体導入かハード込みの機器構築かで、IT導入補助金とものづくり補助金のどちらが向くかも変わります。
交付決定前の発注は補助対象外になるため、採択後のスケジュール管理も含めて早めに準備してください。私たちは2020年3月の創業以来、大阪市東成区を拠点に登録支援事業者として申請支援に携わってきました。法人形態や対象経費の切り分けに迷う場合は、無料相談で投資内容を伝えてください。
