電子カルテ情報共有サービスの国の補助金は、20床以上の病院向けで、クリニックは対象外です。厚生労働省の資料では、病院には改修費の1/2を補助し、未導入の診療所には標準型電子カルテを普及させる方針が示されています。そのためクリニックが費用を抑えるなら、都道府県の診療所向け事業か、IT導入補助金の後継制度を使うことになります。どちらを選ぶかは、今の電子カルテの更新時期と、自院の都道府県の受付状況で決まります。
※ 2026年10月時点の情報です。締切・上限額は各事業の公式ページで確認した日付を本文に添えています。
この記事でわかること
- 国の補助金がクリニックを対象にしていない理由
- 病院向け補助の上限額と補助率
- クリニックが使える3つの選択肢と締切
- 今入れ替えるか、待つかの判断の分かれ目
電子カルテ情報共有サービスの補助金はクリニックも使えるか
電子カルテ情報共有サービス向けの国の補助金は、病院(20床以上)だけが対象で、クリニックは申請できません。ここを知らずにベンダーの提案を待っている院長は少なくありません。
国の補助は「医療提供体制設備整備交付金」として、社会保険診療報酬支払基金が窓口になっています。申請は「医療機関等向け総合ポータルサイト」から行います。
厚生労働省の社会保障審議会医療保険部会の資料(2024年9月30日)は、費用の分担をこう書いています。サービス本体の開発は国の全額負担です。医療機関側の電子カルテ改修は医療機関が行い、病院には国が1/2を補助し、未導入の診療所には標準型電子カルテを普及させるとしています。

つまり「電子カルテ情報共有サービス 補助金」で出てくる上限657万9千円の情報は、クリニックには当てはまりません。有床診療所も19床以下なので、同じく外れます。
病院向けの上限額を前提に見積もりを組むと、申請の段階で対象外と分かり、資金計画が崩れます。クリニックは最初から別の制度で計画してください。
電子カルテ情報共有サービスとは何か
電子カルテ情報共有サービスは、医療機関どうしが患者の診療情報を全国共通の形式でやり取りする国の仕組みです。本格運用は2026年度の冬、2027年1〜2月頃が目標とされています。
共有されるのは「3文書6情報」です。厚生労働省の資料では次のとおり整理されています。
| 区分 | 中身 |
|---|---|
| 3文書 | 診療情報提供書・退院時サマリ・健診結果報告書 |
| 6情報 | 傷病名・薬剤アレルギー等・その他アレルギー等・感染症・検査(救急、生活習慣病)・処方情報 |
稼働時期は一度後ろへずれています。医療等情報利活用ワーキンググループの報道(2026年4月28日)では、2026年10〜12月頃に改修後の検証を行い、2027年1〜2月頃の全国展開を目指すとされました。
クリニックにとっての意味は、紹介状の電子送付と、他院の検査結果の閲覧です。紹介の多い診療科ほど、受付と医師の書類作業が減ります。逆に紹介がほとんど無い医院では、急いで対応する理由は弱くなります。
病院向け補助金の上限額と補助率
病院向けの補助は事業額の1/2で、上限は病床数と健診部門の有無で4段階に分かれます。クリニックには関係しませんが、相談の場で混同されやすいため数字を並べておきます。
上限額は、厚生労働省の資料に記載された「電子カルテ情報標準規格準拠対応事業」の値です。
| 病院の区分 | 健診部門システムあり(3文書6情報) | 健診部門システムなし(2文書6情報) |
|---|---|---|
| 大規模病院(200床以上) | 上限6,579千円(事業額13,158千円の1/2) | 上限5,081千円(事業額10,162千円の1/2) |
| 中小規模病院(20〜199床) | 上限5,457千円(事業額10,913千円の1/2) | 上限4,085千円(事業額8,170千円の1/2) |
補助の対象は、電子カルテをFHIR形式に対応させる改修費と、健診部門システムとの連携費です。2024年3月から申請の受付が始まっています。
表のどの区分にも「診療所」の行はありません。この表が、クリニックが国の交付金を使えないことの根拠です。
クリニックが使える3つの選択肢と締切
クリニックの選択肢は、都道府県の事業・IT導入補助金の後継制度・標準型電子カルテの3つです。締切と補助率がまったく違うため、並べて比べます。

| 選択肢 | 補助率・上限 | 締切(2026年10月時点) | 向く医院 |
|---|---|---|---|
| 都道府県の事業(例: 東京都の診療所向け電子カルテ整備) | 3/4、4床以下は基準額300万円 | 東京都は第2回が8月31日で終了 | 都道府県に事業があり、受付中の医院 |
| デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)通常枠 | 1/2、5万〜450万円 | 6次締切は10月30日17時 | 電子カルテの入れ替え時期が来ている医院 |
| 標準型電子カルテ | 国が普及を進める段階 | 提供時期は国の発表待ち | 紙カルテで、急ぐ理由がない医院 |
都道府県の事業は、地域で中身が大きく違います。たとえば東京都の令和8年度診療所診療情報デジタル推進事業は補助率3/4です。ただしSS-MIX2かHL7 FHIRで出力できることが条件で、過去にこの補助を受けた医療機関は外れます。
この事業も、交付決定の通知より前に結んだ契約は対象外です。さらに2027年3月31日までに整備と業者への支払いを終えることが条件です。来年度の受付を狙う医院は、契約の時期を交付決定の後に置いて計画を組んでください。
東京都にはもう1つ、医療機関診療情報デジタル導入支援事業があります。電子カルテ導入を検討するためのコンサルタント費用が対象です。診療所は補助率3/4・基準額100万円で、申請期限は2026年10月30日です。
国の後継制度は、2026年度に「IT導入補助金」から「デジタル化・AI導入補助金」へ名前が変わりました。登録された電子カルテやレセコンを入れる費用が対象になります。
当社はAI導入補助金の登録支援事業者として、対象ツールの選定から申請書類の作成、採択後の実績報告まで一貫して支援しています。医療機関の相談で最初に確かめるのは、入れたい電子カルテが補助対象のツールとして登録されているかです。
今入れ替えるか待つかの判断基準
今の電子カルテの更新時期が1年以内なら補助金で入れ替え、数年先なら情報共有サービスの本格運用を待つのが基本です。決め手は補助金の締切ではなく、自院の機器の寿命です。

状況ごとの分かれ目は次のとおりです。
- 保守契約が1年以内に切れる医院なら、デジタル化・AI導入補助金で入れ替えを進めます。選ぶ製品はFHIR対応の予定があるものに絞ります
- 都道府県の補助率3/4の事業が受付中の医院なら、そちらを優先します。国の通常枠1/2より自己負担が軽くなります
- 紙カルテのままで、紹介も少ない医院なら、標準型電子カルテの提供を待つ判断も合理的です
- 今の電子カルテが新しく、保守が3年以上残る医院は、補助金のために入れ替えないでください
締切に合わせて製品を急いで決めると、操作研修を診療の合間に詰め込むことになります。私たちは、機器の寿命と締切が重なったときだけ動く順番を勧めています。
FHIR対応の有無は、カタログではなくベンダーに書面で確かめてください。「対応予定」の時期が2027年以降になっている製品は、本格運用の開始に間に合わない可能性があります。
後継制度でクリニックが先に済ませる3つの準備
クリニックがこの制度を使うときは、gBizIDプライム・SECURITY ACTION・交付決定前に契約しないこと、の3点を先に押さえます。ここを落とすと、採択されても補助金は出ません。制度の枠の選び方そのものはIT導入補助金のおすすめの選び方に譲り、ここではクリニックに関わる要件だけを抜き出します。
デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領(通常枠・2026年8月28日改訂)で確認した要件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助額 | 5万〜150万円未満(業務プロセス1〜3)/150万〜450万円(4以上) |
| 補助率 | 1/2(最低賃金近傍の事業者は2/3) |
| 必須の準備 | gBizIDプライム・SECURITY ACTION(一つ星か二つ星) |
| 賃上げ要件 | 保険医療機関は適用外 |
| 次の締切 | 6次締切 2026年10月30日17時(交付決定は12月10日予定) |
保険医療機関が賃上げ要件の適用外になっている点は、クリニックにとって大きな違いです。一般の事業者が150万円以上を申請すると課される給与の年平均3%以上の要件を、計画に入れずに済みます。
交付決定の前に契約・発注した費用は対象外です。ベンダーの「今月中の契約なら値引き」に応じると、補助を受ける資格そのものを失います。詳しい落とし穴はAI導入補助金2026でクリニックが陥る落とし穴で整理しています。
使える経費の区分は電子カルテ3分野の補助額に、予約システムとの組み合わせはクリニックのIT導入補助金と予約システムの選び方にまとめています。
クリニックがつまずきやすい3つの失敗
よくある失敗は、病院向けの情報で計画する・FHIRを確かめない・締切に合わせて契約を急ぐ、の3つです。どれも申請前に防げます。
| 失敗 | 起きたこと | 原因 | 避け方 |
|---|---|---|---|
| 病院向けの補助で予算を組む | 申請段階で対象外と分かる | 20床以上の条件を見落とした | 自院の病床数で制度を選び直す |
| FHIR対応を確かめずに導入 | 数年後に追加の改修費が出る | カタログの「連携可」を信じた | 対応時期を書面で確認する |
| 交付決定前に契約 | 採択後に補助が出ない | ベンダーの値引き期限に合わせた | 契約は交付決定の通知後にする |
3つ目は金額が大きい分、損失も大きくなります。交付決定の日付と契約書の日付は、実績報告で必ず照合されます。提出書類は実績報告の書き方と必要書類で確認できます。
診療報酬の側でも動きがあります。2026年度改定で「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設され、電子カルテ情報共有サービスで得た情報を活用する体制が施設基準の項目に入りました。点数と届出の条件は、地方厚生局の案内で確かめてください。
自社が補助金の対象になるかどうかは、3分の適性診断(無料・8問)で確かめられます。登録なしで、その場で点数が表示されます。
まとめ: 病床数で制度を選び、機器の寿命で時期を決める
電子カルテ情報共有サービスの国の補助金は、20床以上の病院向けです。クリニックは、都道府県の事業かデジタル化・AI導入補助金で計画を立ててください。
時期は締切ではなく、今の電子カルテの保守期限で決めます。更新が近い医院は、FHIR対応の予定がある製品に絞って申請を進めます。更新が先の医院は、2027年の本格運用と標準型電子カルテの動きを見てから判断しても遅くありません。
今日できる一歩は、今の電子カルテの保守契約書を開き、終了日を確かめることです。10月30日の6次締切に間に合うかを相談したい場合は、無料相談で要件の確認から一緒に進められます。

