「AI開発補助金」という名前の単独の制度は存在せず、自社でAIを開発する事業者が使える複数の補助金制度の総称として使われています。代表的なのは新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、省力化投資補助金(一般型)、小規模事業者持続化補助金の3つで、いずれも「デジタル化・AI導入補助金2026」とは対象が異なります。本記事ではこの3制度の補助上限額・補助率と、導入型との使い分けを2026年9月時点の情報で整理します。
※ 2026年9月時点の情報です。
この記事でわかること
- 「AI導入」と「AI開発」で対象になる補助金が違う理由
- 自社開発のAIに使える3つの制度の補助上限額・補助率
- デジタル化・AI導入補助金2026が開発費に使えない理由
- 制度選びと申請でつまずきやすい注意点
AI開発補助金とは?「導入」と「開発」で使える制度が違う
「AI開発補助金」は制度名ではなく、自社開発に使える複数制度をまとめた通称です。自社で独自のAIシステムや新サービスを開発する際に使える補助金をこう呼びますが、「AI導入補助金」と混同されがちなため、まずこの違いを整理します。
近い論点をクリニックのIT導入補助金で扱っています。
私たちは登録支援事業者としてAI導入補助金の申請支援に携わっています。相談の現場では「自社でAIを開発したいので補助金を教えてほしい」という問い合わせを受けることが増えています。その多くは既製ツール向けのAI導入補助金では対象外で、別の制度を案内し直すケースです。
名前が似ているために、開発費まで導入補助金でまかなえると誤解している事業者は少なくありません。次の章から、実際に開発型で使える制度を具体的に見ていきます。
自社開発のAIに使える3つの補助金制度
自社開発のAIに使える主な制度は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、省力化投資補助金(一般型)、小規模事業者持続化補助金の3つです。投資規模と開発の内容によって、向いている制度が変わります。

まず全体像を比較します。同じ「開発」でも、投資額が数十万円規模か数千万円規模かで選ぶべき制度はまるで別物。
| 制度名 | 対象者 | 補助上限額 | 補助率 |
|---|---|---|---|
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 中小企業者・小規模事業者 | 750万円〜7,000万円(特例で最大9,000万円) | 1/2〜2/3 |
| 省力化投資補助金(一般型) | 中小企業者・小規模事業者 | 750万円〜8,000万円(特例で最大1億円) | 1/2〜2/3 |
| 小規模事業者持続化補助金 | 小規模事業者 | 50万円(特例併用で最大250万円) | 2/3(赤字事業者3/4) |
上限450万円のこの制度は、事前登録済みの既製ソフトウェア導入が対象です。自社独自のAI開発費には使えません。
次の3つの章で、それぞれの制度の補助額と対象範囲を具体的に見ていきます。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の補助額と対象
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、技術的革新性のある新製品・新サービス開発が対象で、補助上限は最大7,000万円です。内訳は、革新的新製品・サービス枠が上限750万円〜2,500万円(賃上げ特例で最大3,500万円)、新事業進出枠が上限2,500万円〜7,000万円(賃上げ特例で最大9,000万円)です。
この制度は、旧「ものづくり補助金」と旧「中小企業新事業進出補助金」が2026年6月に統合されて生まれました。公式サイトによると、革新的新製品・サービス枠の補助率は中小企業1/2、小規模事業者・再生事業者2/3で、従業員規模に応じて上限額が段階的に上がります。
| 従業員数 | 革新的新製品・サービス枠の上限 | 新事業進出枠の上限 |
|---|---|---|
| 1〜5人 | 750万円 | 2,500万円 |
| 6〜20人 | 1,000万円 | 2,500万円 |
| 21〜50人 | 1,500万円 | 4,000万円 |
| 51人以上 | 2,500万円 | 5,500万円〜7,000万円 |
自社で開発したAIエンジンや独自のAI搭載SaaSを新サービスとして売り出す場合を考えます。「技術的革新性」と「付加価値額の向上」という審査要件を満たせれば、この枠の対象になり得ます。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公式サイトによると、2026年度第1回公募は6月29日に公募要領が公開されました。申請受付は8月31日から始まり、第1期の締切は9月30日18時です。第2期の締切は10月30日18時と案内されており、公募は複数回に分かれて実施されます。第1期に間に合わない場合は、次回公募を待つ選択肢もあります。
自社開発のAIをこの枠で申請する際に忘れやすいのが、「技術的な新しさ」だけでなく「その新しさが売上や利益にどう結びつくか」を数値で示す事業計画です。審査員はAIの技術水準そのものよりも、既存事業との違いや市場での優位性を重視して評価します。
中小企業者の定義や資本金・従業員数の区分は、ものづくり補助金は資本金オーバーでも対象?中小企業者7区分で詳しく解説しています。
省力化投資補助金(一般型)は自社専用のAI設備に使える
省力化投資補助金(一般型)は、AI等を活用したオーダーメイドの省力化設備投資が対象で、補助上限は最大1億円です。補助上限額は通常750万円〜8,000万円で、大幅な賃上げを行う場合に1億円まで引き上がります。補助率は中小企業1/2、小規模事業者・再生事業者2/3です。
この制度が新事業進出・ものづくり補助金と違うのは、「新製品・新サービスの開発」ではなく「人手不足を解消する省力化」を主目的にしている点です。省力化投資補助金(一般型)の公式サイトによると、既製のカタログ品ではなく、自社の業務に合わせてベンダーと共同設計するオーダーメイド型の設備が対象です。
例えば、製造ラインの検品を自社専用のAIカメラシステムに置き換えたい場合を考えます。既製のカタログ品では対応できないケースが多く、一般型のオーダーメイド枠が候補になります。省力化の効果(労働生産性の向上率)を事業計画で数値として示す必要がある点は、他の2制度と比べても審査のハードルがやや高くなります。
小さく始めるなら小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金は、従業員5人以下等の小規模事業者が対象で、補助上限は最大250万円です。通常の上限は50万円で、インボイス特例・賃金引上げ特例を併用すると250万円まで上がります。補助率は2/3、赤字事業者は3/4です。
他の2制度と比べると規模は小さい制度です。ですが「AIを使った販促ツールを試作したい」「小さくAI活用の実証実験をしたい」という段階には、審査のハードルが低いこの制度が向いています。大規模な開発資金がまだ確保できていない事業者の、最初の一歩として使われることが多い制度。小規模事業者持続化補助金の公式サイトでも、対象経費に広報費・開発関連費用の費目が含まれることが案内されています。
例えば、飲食店が独自の来店予測AIを試作する場合を考えます。まず外部エンジニアへの小規模な開発委託を持続化補助金で進め、実用化のめどが立った段階で規模の大きい制度に切り替える。こうした段階的な使い方も現実的です。
小規模事業者と中小企業者の判定基準の違いは、小規模事業者持続化補助金は中小企業も対象|3制度の使い分けで詳しく整理しています。自社がどちらに該当するか分からない場合は、先にこちらで基準を確認してください。
AI導入補助金では独自開発の費用が対象外になる理由
デジタル化・AI導入補助金2026は、登録済みの既製ツール導入のみが対象で、独自のAI開発費には使えません。制度上、対象になるのは「事前にIT導入支援事業者が登録したツール」だけです。補助上限額は5万円〜450万円、補助率は1/2〜2/3です。
制度の枠組み上、審査対象になるのは登録済みのソフトウェア・サービスのみで、これから開発するAIシステムはそもそも登録の対象になりません。「AI導入補助金を使えば開発費も出ると思っていた」という相談を、私も申請支援の現場で何度か受けたことがあります。制度の名前に「AI」が入っているため、開発も含まれると誤解されやすい部分です。
既製のAIツール導入を検討している場合の対象ツール6分野は、AI導入補助金の対象ツール6分野|対象外との見分け方で確認できます。導入したいものが「既にあるツール」か「これから作るもの」かで、最初に見るべき制度が変わります。
AI開発補助金の申請でつまずきやすい3つの注意点
AI開発型の補助金申請でつまずきやすいのは、制度選びのミス・付加価値要件の未達・賃上げ要件の確認漏れの3点です。いずれも事前の準備段階で防げるものばかりです。


1つ目は、開発費を誤ってAI導入補助金に計上してしまうミスです。前章のとおり対象外のため、申請自体が受理されません。2つ目は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金で求められる「付加価値額の向上率」の要件です。単にAIを作るだけでなく、それが売上や利益にどうつながるかを事業計画で具体的に示す必要があります。
3つ目は賃上げ要件です。賃上げ特例を使えるかどうかで補助上限額が数百万円〜数千万円単位で変わります。申請前に自社が要件を満たせるか確認しておくと、あとから枠を変更する手戻りを防げます。公募のスケジュールは変更されることもあるため、公式サイトで最新の締切を確認してから準備を始めてください。
公募締切に間に合わせようと交付決定前に発注・契約してしまうと、その分の経費は補助対象から外れます。必ず交付決定通知を受け取ってから着手してください。
まとめ: 「導入」か「開発」かで最初に制度を分ける
AI開発補助金という単独の制度はなく、実際に使えるのは新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、省力化投資補助金(一般型)、小規模事業者持続化補助金の3つ。既製ツールを入れるだけならデジタル化・AI導入補助金2026、自社でゼロからAIを作るならこの3制度、とまず入口を分けてください。
投資規模が数千万円クラスの新サービス開発なら新事業進出・ものづくり商業サービス補助金が候補です。人手不足解消が目的の自社専用AI設備なら省力化投資補助金(一般型)、小さく試したいなら小規模事業者持続化補助金が向いています。制度ごとに公募スケジュール・審査要件が異なるため、事業計画をある程度固めた段階で、登録支援事業者や認定支援機関に相談しながら進めると手戻りが少なくなります。
まずは自社が開発したいAIの規模感を整理し、どの制度の土俵で戦うかを決めるところから始めてみてください。
