労働保険の年度更新を電子申請で行う義務は、個人事業主にはありません。電子申請が義務化されているのは資本金1億円超の法人や相互会社など「特定の法人」に限られ、個人事業主は紙の申告書と電子申請のどちらを選んでもかまいません。本記事では、電子申請を選ぶ場合の具体的な手順と、2026年度(令和8年度)の申告期間を解説します。
※ 2026年9月時点の情報です。申告期間や様式は年度ごとに変わるため、最新情報はe-Gov公式サイトで確認してください。
この記事でわかること
- 個人事業主に電子申請の義務があるかどうか
- 2026年度(令和8年度)の申告期間
- 電子申請の5つの手順
- 電子申請でつまずきやすい注意点
労働保険の年度更新とは?個人事業主が知っておく基本
年度更新とは、前年度の確定保険料の精算と新年度の概算保険料の申告を、同じ時期にまとめて行う手続きです。労働保険料は賃金総額に保険料率をかけて計算し、前払いのため毎年この精算が必要になります。
個人事業主でも、従業員を1人でも雇えば労働保険への加入義務が生じます。加入した翌年度からは、毎年6月から7月にかけてこの年度更新の手続きが必要です。まだ労働保険に加入していない、初めて従業員を雇う段階の方は、e-Gov電子申請とは|個人事業主が使う場面と4ステップで加入手続きの入口から確認してください。
家族従業者のみで営んでいる場合は、そもそも労働保険の対象外になるケースがあります。対象になるかどうかの分かれ目は、生計を一にしない従業員を雇っているかどうかです。
個人事業主に年度更新の電子申請は義務化されているか
個人事業主は、年度更新の電子申請義務化の対象には含まれず、紙申告か電子申請かを自由に選べます。義務化されているのは、資本金や出資金が1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社に限られます。
厚生労働省の案内では、2020年4月から「特定の法人」の事業場が年度更新の申告等を行う場合に電子申請を必須とする、と説明されています。個人事業主は法人ではないため、この対象に該当しません。
つまり個人事業主にとって、電子申請はあくまで選択肢の1つです。窓口や郵送で紙の申告書を提出する方法も、引き続き使えます。そのうえで電子申請には、窓口へ出向かず提出できる、入力内容をシステムがチェックしてくれるといった利点があります。補助金の分野でも電子申請の義務化が段階的に進んでおり、動向は補助金の電子申請はいつから義務化?中小企業が今やることで解説しています。
| 提出方法 | 対応時間 | 入力チェック | 個人事業主の扱い |
|---|---|---|---|
| 電子申請(e-Gov) | 24時間提出可能 | 自動チェックあり | 任意 |
| 紙の申告書(窓口・郵送) | 窓口の開所時間内 | 職員による確認 | 任意 |
義務ではないからこそ、自分の作業環境に合った方法を選べます。パソコンでの入力に慣れている方は、電子申請のほうが手戻りを減らせます。
2026年度の年度更新の申告期間はいつからいつまでか
2026年度(令和8年度)の労働保険年度更新は、2026年6月1日から7月10日までが申告期間です。この期間内に、確定保険料と概算保険料の両方を申告・納付します。
e-Gov電子申請の公式案内でも、令和8年6月1日から7月10日まで年度更新を受け付ける旨が明記されています。期間は例年6月1日から7月10日で、土日祝の関係で数日前後することがあります。
申告が期限を過ぎると、確定保険料に対して10%相当の追徴金が課されることがあります。締切間際の駆け込み申告は、入力ミスや添付漏れを招きやすくなります。私も相談の現場で、7月10日ぎりぎりに慌てて連絡をもらうケースを何度も見てきました。
期間中は年度更新コールセンター(0120-963-339)が開設され、書き方の相談に対応しています。申告書の項目で迷ったときは、自己判断で埋めずに問い合わせることをおすすめします。
個人事業主が年度更新を電子申請する5つの手順
個人事業主が年度更新を電子申請するには、ログインから電子署名・送信までの5つの手順を踏みます。e-Gov電子申請アプリを使って進めます。

まずGビズIDプライムでe-Gov電子申請アプリにログインします。GビズIDの取得方法はAI導入補助金のGビズID取得方法|プライム取得の5つの手順で個人事業主向けに解説しているとおりで、補助金の電子申請と同じIDを使い回せます。
ログインしたら「年度更新」で手続を検索し、該当する申告手続を選びます。次に労働保険番号とアクセスコードを入力し、確定保険料・概算保険料の申告内容を入力します。最後に電子署名を付けて送信し、マイページで「到達」の状態になっていれば申告完了です。
電子証明書がなくても進められる
GビズIDプライムでログインする方式なら、別途の電子証明書を用意する必要がありません。マイナンバーカードによる電子署名の代わりに、GビズIDでの本人確認が使えます。この点は、初めて電子申請に触れる個人事業主にとって大きな負担軽減です。
送信後にマイページで確認できる到達番号や申告内容の控えは、必ず保存しておいてください。紙の申告書と違い、電子申請では手元に控えが自動的に残らないため、自分で保存する意識が欠かせません。翌年度の年度更新で前年の数字を参照する際や、労働局から問い合わせがあった際の、いちばん確実な証拠。
電子申請前に準備するもの3点
電子申請の前に、労働保険番号とアクセスコード、賃金総額の集計結果、GビズIDの3点を用意してください。この3つがそろえば、申請作業自体は短時間で終わります。

アクセスコードは、送付される申告書の右上に印字された8桁の英数字。大文字と小文字が区別されるため、入力時は表記どおりに打ち込んでください。紙の申告書がまだ手元にない場合は、管轄の労働基準監督署に問い合わせれば確認できます。
賃金総額の集計は、前年4月から当年3月までに支払った給与・賞与などをすべて足し合わせます。集計を年度更新の直前に始めると、給与明細を探し直す手間で時間を取られがちです。月次で給与計算をしている場合は、月ごとの集計表をそのまま合算するだけで済みます。
概算保険料と確定保険料はどう精算されるか
年度更新では、前年度の概算保険料と実際にかかった確定保険料の差額を精算し、あわせて新年度分の概算保険料を申告します。この2つの手続きが同時に進む点が、年度更新の分かりにくさの原因です。
| 区分 | 対象期間 | 内容 |
|---|---|---|
| 確定保険料 | 前年度(4月〜翌3月) | 実際の賃金総額から算出した保険料を精算 |
| 新年度の概算保険料 | 当年度(4月〜翌3月) | 見込みの賃金総額から前払いする保険料 |
前年度に払いすぎていれば還付か新年度分への充当、不足していれば追加納付という形で精算されます。賃金総額が前年から大きく変わった個人事業主ほど、この差額が大きくなる傾向があります。従業員を新たに雇った年度や、逆に減った年度は、集計時に金額のブレを見込んでおくと安心です。
たとえば前年度の概算保険料が10万円で、確定した賃金総額から算出した確定保険料が12万円だった場合、不足分の2万円を新年度の概算保険料とあわせて納付します。反対に確定保険料が8万円であれば、差額の2万円は還付か新年度分への充当のどちらかを選べます。この差額計算があるからこそ、賃金集計の正確さが申告額に直結します。
労働保険料率は、労災保険と雇用保険で別々に定められており、さらに業種によっても異なります。建設業のように労災リスクが高い業種ほど、労災保険料率も高く設定される傾向があります。自分の業種区分がどこに当たるかは、加入時に受け取った労働保険番号の通知書類で確認できます。社会保険労務士による年度更新の解説でも、賃金総額の集計ミスがそのまま差額計算のずれにつながりやすいと指摘されています。
年度更新の電子申請でつまずきやすい注意点
年度更新の電子申請のつまずきは、義務化の誤解とアクセスコード関連の手違いに集中しています。制度自体は複雑ではなく、事前の確認不足が主な原因です。

私も、「電子申請が義務だと思い込み、紙の申告に慣れているのに無理に電子申請へ切り替えようとする」という相談を受けたことがあります。義務化対象かどうかは、資本金の有無ではなく法人か個人事業主かで決まります。個人事業主であれば、慣れた方法をそのまま使ってかまいません。
アクセスコードが届かないまま申告期限が近づき、慌てて連絡をもらうケースも少なくありません。コードが見当たらない時点で早めに労働基準監督署へ確認しておけば、期限直前の焦りを防げます。賃金総額の集計も同様に、期間の直前ではなく4月のうちに済ませておくと余裕が生まれます。
従業員の入退社が年度の途中で発生した場合、賃金総額の集計から漏れやすくなります。退職した従業員の賃金を計上し忘れると、確定保険料が実態より少なく算出されてしまいます。入退社があった月は、給与台帳をさかのぼって漏れがないかを必ず確認してください。
年度更新の事務をIT導入補助金の対象ツールで効率化する視点
年度更新の賃金集計や申告書作成は、クラウド型の会計・労務ソフトを使うと作業時間を大きく圧縮できます。こうしたソフトの導入費用は、IT導入補助金の対象になる場合があります。
当社は登録支援事業者として、IT導入補助金の対象ツールの選定から申請書類の作成、採択後の実績報告まで一貫して支援しています。年度更新の賃金集計をエクセルの手作業で行っている個人事業主ほど、クラウド化による時短効果を実感しやすいというのが、支援の現場で見てきた傾向です。
個人事業主が使える会計ソフトの補助金枠については、会計ソフトの補助金|個人事業主が使える2つの枠と補助率で対象範囲と補助率を解説しています。年度更新のたびに集計作業へ時間を取られている方は、あわせて確認してみてください。
まとめ: 個人事業主は義務ではなく実務効率で電子申請を選ぶ
労働保険の年度更新の電子申請は、個人事業主にとって義務ではなく、実務の手間を減らすための選択肢です。義務化対象はあくまで資本金1億円超の法人などに限られます。
2026年度の申告期間は6月1日から7月10日まで。GビズIDプライムでログインし、労働保険番号とアクセスコードを入力すれば、5つの手順で申告を終えられます。賃金総額の集計だけは、期間の直前ではなく早めに着手してください。
年度更新の事務にかかる時間そのものを減らしたい方は、クラウド会計・労務ソフトの導入とあわせてIT導入補助金の活用も検討してみてください。対象範囲は会計ソフトの補助金|個人事業主が使える2つの枠と補助率で確認できます。
労働保険への加入自体がまだの方は、e-Gov電子申請とは|個人事業主が使う場面と4ステップを先にご覧ください。制度の詳細は毎年変わる可能性があるため、迷ったときは自己判断で進めず、専門家や登録支援事業者に相談することをおすすめします。
