IT導入補助金を使った建設業の公式事例は、積算・勤怠・原価管理・見積の4つの課題に分かれます。事務局が公開する建設業の事例では、公共工事の入札参加が3か月で5件に増えた会社や、残業時間が3分の1になった会社が紹介されています。本記事では4社の事例を課題別に並べ、自社がどれを真似るべきかを判断できるように整理します。
※ 2026年9月時点の情報です。事例は2020〜2024年度のもので、当時の申請枠は現在と異なります。
この記事でわかること
- 建設業の公式事例4社の課題・ツール・効果
- 事例の数字を読むときに見落としやすい点
- 過去の事例を2026年の制度に当てはめる方法
- 自社がどの事例から真似るべきかの分け方
建設業の事例は4つの課題に分かれる
建設業の公式事例は、積算・勤怠・原価管理・見積という4つの業務課題に分けて読むと、自社との距離が分かります。業種名が同じでも、困っている業務が違えば役に立つ事例は変わるからです。
事例は事務局の「ITツール活用事例」ページで公開されています。建設業に分類された事例のうち、現場の業務に関わる4社を下の表にまとめました。
| 会社(所在地・従業員数) | 課題 | 導入ツール | 公表された効果 |
|---|---|---|---|
| ホーム・アート(大阪府堺市・18名) | 公共工事の積算 | 土木積算システム | 入札参加が1年で数件→3か月で5件 |
| 小幡建設工業(青森県八戸市・39名) | 勤怠の打刻 | 就業管理ソフト | 残業時間が3分の1 |
| 河北(宮崎県都農町・54名) | 工事原価の管理 | 工事原価作成システム | 年間120万円のコスト削減 |
| 田中住建(東京都・3名) | 見積書の作成 | 住宅営業支援システム | 約1.5か月の業務が最短5日 |

従業員3名から54名まで、規模には幅があります。共通しているのは、1社ごとに解決したい業務が1つに絞られている点です。
建設業で対象になるツールの分野全体は、建設業の2024年問題をAI導入補助金でどう埋めるかで整理しています。
積算ソフトで公共工事の入札を増やした事例
積算ソフトの事例では、公共工事の入札参加件数が1年で数件から3か月で5件に増えました。大阪府堺市で電気・空調設備の工事を手がけるホーム・アートの事例です。
事務局が公開した同社の事例資料によると、同社は元請けの比率を上げるため入札に参加していました。しかし落札できたのは10年で1件だけでした。
そこで2021年度の補助金で、土木積算システム「ATLUS REAL Evo(NET版)」を導入しています。導入後は、スタッフが入札情報を自分から確認し、見積もりを始めるようになったと書かれています。
ここで読み違えやすい点があります。増えたのは「入札への参加件数」で、落札件数ではありません。積算ソフトが縮めるのは見積にかかる時間です。受注が増えるかは、その先の価格と技術で決まります。
もう1つ、同社は導入後に経営陣も一緒に同業他社のツール利用を見学しています。操作への不安を減らすための工夫です。ツールを入れた後の動機づけまで計画に入っていた点が、この事例の要です。
勤怠管理で現場からの打刻を実現した事例
勤怠管理ソフトの事例では、現場で打刻できるようにしたことで残業時間が3分の1に減りました。青森県八戸市で住宅建設や土木工事を行う小幡建設工業の事例です。
同社の事例資料によると、以前は現場の作業員がタイムカードを押すためだけに本社へ出社・帰社していました。往復の移動時間は残業扱いです。
2020年度の補助金で就業管理ソフト「就業大臣NX Super」を導入し、現場で打刻できるようにしました。勤怠管理にかかる時間も2日から1日へ半減しています。
見落とせないのは、同社がツールと同時に就業規則も変えている点です。有給休暇を1日単位から1時間単位で取れるように改めました。残業の減少は、ソフトだけでなく移動そのものをなくした効果です。
勤怠ソフトを入れても、打刻のために本社へ戻る運用が残れば移動時間は減りません。事例の効果は、ツールと一緒に変えた手順や規則とセットで読んでください。
工事原価システムで単価を揃えた事例
工事原価システムの事例では、協力業者との取引単価が揃い、年間120万円のコスト削減につながりました。宮崎県都農町の一般土木建築工事業、河北の事例です。
同社の事例資料によると、作業ごとに会計システムとExcelが混ざり、二度手間と入力ミスが起きていました。取引単価も社内で共有できていませんでした。
2020年度の補助金で工事原価作成システム「Neo原価」を導入しています。見積・実行予算・発注・出来高査定が1つのシステムにまとまりました。利益率は0.17%増加し、クラウド型のためテレワークもできるようになったと書かれています。
0.17%は小さく見えます。ただし売上約10億円の会社なら、利益に残る額は年に百万円単位です。原価管理は、売上が大きい会社ほど効き目が見えやすい分野といえます。
住宅営業支援システムで見積を短縮した事例
住宅営業支援システムの事例では、約1.5か月かかっていた見積書の作成が最短5日に縮みました。東京都で注文住宅を手がける従業員3名の工務店、田中住建の事例です。
同社の事例資料によると、少人数のため1人あたりの工数が重く、特に見積書を出すまでに時間がかかっていました。2024年度の通常枠で「ALTA Revolution」を導入しています。
このツールは、プラン作成から積算・見積・設計・法規チェックまでを1つで扱えます。AIで図面を3D・VR化し、完成イメージを施主と共有しやすくなったと書かれています。
従業員3名でも採択されていることは、小さな工務店にとって判断材料になります。規模が小さいことだけで申請をあきらめる必要はありません。
過去の事例を今の制度に当てはめるときの注意点
公式事例の多くは2020〜2024年度のもので、当時の申請枠や補助率は2026年の制度とは異なります。事例をそのまま自社の資金計画に使うと、補助額の見込みを誤ります。
たとえばホーム・アートは「特別枠(C類型-1)」、小幡建設工業は「特別枠(A類型)」で申請しています。どちらも新型コロナ対応の時期に設けられた枠で、今はありません。
事務局の通常枠ページによると、2026年の通常枠は補助率1/2以内です。上限額は、ツールが扱う業務プロセスの数に応じて5万円〜450万円の幅で決まります。
| 見るところ | 事例資料の書き方 | 2026年に確かめること |
|---|---|---|
| 申請枠 | 特別枠・C類型など | 通常枠かインボイス枠か |
| 補助率 | 事例資料には載っていない | 通常枠は1/2以内(賃上げ要件で2/3以内) |
| ツール | 当時の登録ツール | 今年度も登録されているか |
| 効果 | 導入1年前後の数字 | 自社で測れる指標に置き換える |
同じツールでも、今年度に登録が更新されていなければ対象外です。登録の確かめ方はベンダー登録とは?IT導入補助金の確認方法にまとめています。建設業での補助額の試算は建設業のAI導入補助金はいくら?が参考になります。
自社はどの事例から真似るか
真似る事例は業種の近さではなく、最も時間やお金を失っている業務がどれかで選びます。同じ建設業でも、公共工事中心の会社と注文住宅の工務店では困りごとが違うためです。
判断は次の分け方が目安になります。
| 自社の状況 | 近い事例 | 導入を考えるツール |
|---|---|---|
| 見積に時間がかかり、入札や提案の数を増やせない | ホーム・アート、田中住建 | 積算・見積ソフト |
| 打刻や日報のために現場から事務所へ戻っている | 小幡建設工業 | 勤怠・日報アプリ |
| 現場ごとの利益が工事完了まで分からない | 河北 | 工事原価管理システム |
見積の遅さで失注しているなら積算、移動が残業を生んでいるなら勤怠から入るのが順番です。両方あるときは、金額に換算して大きい方を先にします。

一方で、今は申請を待つべき場合もあります。繁忙期の真っ最中に切り替えると、現場が新しいツールに慣れる時間が取れません。また、ツールを入れても手順を変える担当者がいない場合は、先に運用を決める人を決めてください。
私たちが建設業の相談を受けると、最初に「おすすめのソフトは?」と聞かれることがよくあります。その前に、どの業務で週に何時間失っているかを一緒に書き出すと、候補は自然に2〜3本まで絞れます。
事例から読み取れる失敗しやすい点
事例資料には成功した部分しか書かれないため、裏側にある失敗しやすい点を自分で読み取る必要があります。4社の資料を並べると、効果を出した会社が避けた落とし穴が見えてきます。

1つ目は、ツール名だけを真似ることです。4社はいずれも、導入前の課題を数字や具体的な場面で書けていました。「10年で落札1件」「タイムカードのために出社」のような書き方です。
2つ目は、入れて終わりにすることです。ホーム・アートは見学で不安を減らし、小幡建設工業は就業規則を変えました。河北も、ためらう従業員を支援事業者のサポートで支えたと書いています。
3つ目は、申請書に効果の測り方を書かないことです。実績報告では導入後の状況を報告します。報告の準備は建設業の実績報告書|3つの証憑ポイントで確認できます。
不採択の典型的な理由は建設業がAI導入補助金で不採択になる6つの理由にまとめています。
申請から採択までにかかる日数
当社が2025年4月〜2026年3月に支援して採択された25社は、全社が申請から31〜60日で採択されました。導入時期を決めるときは、この期間を逆算に入れてください。
当社はAI導入補助金の登録支援事業者として、ツールの選定から申請書類の作成、採択後の実績報告まで一貫して支援しています。同じ期間に申請を支援した30社のうち25社が採択されました(採択率83.3%)。
交付決定の前に契約・発注したツールは補助の対象になりません。事例の会社のように閑散期に切り替えたいなら、閑散期の2か月以上前には申請を終える計算です。
申請で必要になる書類は建設業のAI導入補助金|必要書類10点と揃える順番で確認できます。
まとめ: 事例はツール名ではなく課題と効果で読む
IT導入補助金を使った建設業の公式事例は、積算・勤怠・原価管理・見積の4つに分かれます。入札参加が3か月で5件、残業が3分の1、年間120万円の削減、見積が最短5日と、効果の出方は課題ごとに違います。
どの事例を真似るかは、業種ではなく「最も時間やお金を失っている業務」で決めてください。見積の遅さなら積算、現場との往復なら勤怠、利益の見えにくさなら原価管理が入口です。
今日できる一歩は、先週1週間で見積・打刻・原価集計に使った時間を書き出すことです。数字が出れば、真似る事例も申請書に書く課題も決まります。書き出した結果を持って相談いただければ、今年度の登録ツールと枠の組み合わせを一緒に確かめます。
