新規就農の初期費用は、就農1年目の平均で755万円、中央値で350万円です。全国新規就農相談センターが2021年8月時点で2,355人を集計した結果で、平均は一部の大型投資に引き上げられています。
この費用を1つの補助金でまかなう方法はありません。機械・施設、生活費、運転資金、管理ソフトと、費目ごとに使える制度が分かれています。本記事では、費目と制度の対応、経営開始資金と併用したときに上限が下がる仕組みを整理します。
※ 2026年9月時点の公表内容です。農林水産省の支援策は年度ごとに金額や要件が見直されます。
この記事でわかること
- 就農1年目の初期費用の平均と、作目ごとの差
- 機械・施設、生活費、運転資金、ソフトで使える制度
- 経営開始資金を受けると経営発展支援事業の上限が下がる仕組み
- 補助金を当てにした資金計画でつまずく点
農業の初期費用はいくらかかるのか
就農1年目の営農費用は平均755万円で、うち561万円が機械・施設、194万円が種苗や肥料などの必要経費です。中央値は350万円で、半数の人はこの額以下で始めています。
数字の出どころは、全国新規就農相談センターの新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和3年度)です。新規参入者2,355人を集計しています。
同じ調査で、営農に充てた自己資金は平均281万円でした。費用との差は474万円あり、この差を補助金と融資で埋めるのが資金計画の中心です。生活面の自己資金は平均170万円、1年目の売上高は平均343万円でした。
平均と中央値が2倍以上離れている点は見落とせません。平均755万円を目安にすると、露地野菜のような小さく始める作目では過大な計画になります。まず自分の作目の数字を見てください。
作目で初期費用はどれだけ違うのか
初期費用は作目で10倍近く違い、施設野菜は平均1,136万円、露地野菜は平均431万円です。ハウスや畜舎が要る作目ほど、機械・施設費が大きくなります。
同じ調査の作目別の結果を、自己資金との差額と並べました。差額がマイナスの分を、補助金と融資で埋める必要があります。
| 作目 | 1年目の費用(平均) | 中央値 | 自己資金との差額(平均) |
|---|---|---|---|
| 露地野菜 | 431万円 | 300万円 | −193万円 |
| 果樹 | 419万円 | 300万円 | −171万円 |
| 水稲・麦・雑穀類・豆類 | 489万円 | 260万円 | −187万円 |
| 施設野菜 | 1,136万円 | 650万円 | −815万円 |
| 酪農 | 3,903万円 | 3,300万円 | −3,322万円 |
出典: 全国新規就農相談センター「新規就農者の就農実態に関する調査結果(令和3年度)」表24。
露地野菜や果樹は、差額が200万円前後です。この規模なら、自己資金と経営開始資金で乗り切る計画も立てられます。
1年目の売上高は、露地野菜が平均231万円、施設野菜が平均480万円でした。施設野菜は投資が大きい分、1年目から売上も立ちやすい作目です。
施設野菜は差額が815万円あります。ハウスを建てる前提なら、経営発展支援事業と融資を組み合わせないと計画が成り立ちません。酪農は桁が違うため、補助金より融資の設計が先になります。
初期費用の費目ごとに使える補助金はどれか
費目ごとに使う制度が分かれ、機械・施設は経営発展支援事業、生活費は経営開始資金、ソフトはAI導入補助金です。残りの自己負担は、無利子の青年等就農資金で埋めます。

| 費目 | 使える制度 | 金額・補助率 | 主な条件 |
|---|---|---|---|
| 機械・施設・果樹の植栽 | 経営発展支援事業(通常枠) | 国費上限500万円、国1/2・都道府県1/4 | 49歳以下の認定新規就農者、本人負担分の融資 |
| 就農直後の生活費 | 経営開始資金 | 月13.75万円(年165万円)、最長3年 | 就農時49歳以下 |
| 残りの自己負担 | 青年等就農資金(融資) | 無利子、上限3,700万円、17年以内 | 認定新規就農者 |
| 栽培管理・会計のソフト | AI導入補助金 | 補助率1/2など枠による | 登録されたソフトを支援事業者経由で申請 |
金額は農林水産省の就農準備資金・経営開始資金と青年等就農資金の案内によります。
農地の取得費と、住居の費用は、どの制度でも対象になりません。「初期費用の全部に補助が出る」と考えて計画を立てると、農地と住居の分がまるごと不足します。
50歳以上で就農する場合の選択肢
経営開始資金と経営発展支援事業は、どちらも49歳以下が対象です。50歳以上で独立する場合、この2つは使えません。
青年等就農資金は、知識や技能を持つ65歳未満の人も対象になります。50歳以上なら、無利子の融資と、都道府県・市町村の独自の支援を軸に計画を組みます。独自の支援は自治体ごとに名称も金額も違うため、就農予定地の窓口で一覧をもらってください。
同じ調査では、50〜59歳で就農した人の1年目の費用は平均653万円で、自己資金は平均528万円でした。若い世代より自己資金が厚く、差額は平均126万円にとどまっています。
トラクターなど機械ごとの制度の違いは、農業機械で使える4つの補助金制度で詳しく比べています。
経営発展支援事業で機械・施設の負担はいくら減るか
経営発展支援事業は国が1/2、都道府県が1/4を支援し、本人負担は事業費の1/4まで下がります。国費の上限は500万円で、事業費1,000万円までが満額の範囲です。
仕組みは「都道府県が支援した額の2倍を国が支援する」形です。農林水産省の経営発展支援事業のページで、令和8年度の実施要綱が公開されています。
対象になるのは機械・施設の購入のほか、家畜の導入、果樹・茶の新植や改植、機械のリースです。購入に限らずリースでも使えるため、初期の負担を分けたい人は選択肢に入れてください。
ハウスと設備に800万円かける施設野菜の例で計算します。都道府県が国の半額を支援する前提です。
| 項目 | 経営開始資金を受けない | 経営開始資金を受ける |
|---|---|---|
| 事業費 | 800万円 | 800万円 |
| 国の支援 | 400万円 | 250万円(上限) |
| 都道府県の支援 | 200万円 | 125万円 |
| 本人負担(融資) | 200万円 | 425万円 |
経営開始資金を受けると、国費の上限が500万円から250万円に下がります。この例では、本人負担が225万円増える計算です。
都道府県の支援額は、県の予算や方針で変わります。実際の金額は、市町村の就農担当窓口で確かめてから計画に入れてください。
経営開始資金と経営発展支援事業はどちらを先に考えるか
生活費の蓄えが少ないなら経営開始資金との併用、施設型で投資が大きいなら併用しない計算も比べます。総額だけでなく、どの年にお金が要るかで決めます。

経営開始資金は3年で最大495万円です。併用で減る国費は最大250万円なので、多くの場合は併用したほうが受け取る総額は多くなります。
判断が分かれるのは次の2つの場面です。
- 投資額が500万円以下なら、国費上限250万円の範囲に収まります。併用しても機械・施設の補助は減りません
- 地域計画の早期実現を進める地域に位置付けられるなら、特別枠(国費上限600万円)が候補です。特別枠は経営開始資金と併用できません
生活費を自己資金で2〜3年賄える人は、特別枠と比べる価値があります。迷ったら、開始資金なし・ありの2通りで資金繰り表を作り、手元資金が最も減る月を比べてください。
経営開始資金は、交付後に営農を続けないと返還を求められることがあります。受け取る前に、交付の条件を窓口で確認しておきましょう。
栽培管理や会計のソフトはAI導入補助金の対象か
栽培管理・出荷管理・会計のソフトは、登録されていればAI導入補助金の対象です。農業機械やハウスは対象外なので、機械は農水省の制度、ソフトはAI導入補助金と分けます。
ソフトの金額は機械より小さいものの、1年目から作目ごとの原価が見えると、2年目の投資判断が早くなります。機械の補助と同じ年度に申請しても、制度が別なので競合しません。
どのソフトが対象になり、個人農家と法人で何が違うかは、農業はAI導入補助金の対象になるかにまとめました。
当社は2025年4月〜2026年3月に30社の申請を支援し、25社が採択されました(採択率83.3%)。採択された25社は、全社が申請から31〜60日で採択されています。
初期費用を補助金で埋める計画の失敗例
最も多い失敗は、交付決定の前に機械やハウスを発注し、補助の対象から外れることです。契約や発注は、必ず交付決定の後に行ってください。
補助金は、支払いを終えて実績を報告した後に振り込まれます。いったん全額を立て替える資金が必要で、つなぎの融資を組んでおかないと発注できません。
2つ目は、融資を後回しにする失敗です。経営発展支援事業は、本人負担分を金融機関から借りていることが交付の要件です。融資の審査が遅れると、補助も一緒に遅れます。
3つ目は、平均額で計画を立てる失敗です。露地野菜の人が平均755万円で資金を集めると、借入が過大になります。前の章の作目別の中央値から計画を始めてください。
私たちが相談を受ける中でも、「補助金が出る前提で先に見積もりを確定した」というケースは珍しくありません。見積もりは取ってよく、発注だけを待つと覚えておくと、手戻りを防げます。
自社が補助金の対象になるかどうかは、3分の適性診断(無料・8問)で確かめられます。登録は不要で、その場で点数が出ます。
就農前から逆算する申請のスケジュール
機械・施設を使う時期の半年から1年前に、認定新規就農者の認定と融資の相談を始めます。経営発展支援事業は市町村が窓口で、認定を受けていないと申請できません。

進める順番は次のとおりです。
- 作目と投資額を決める(作目別の中央値を出発点にする)
- 市町村に青年等就農計画を出し、認定新規就農者になる
- 金融機関の融資と、経営発展支援事業を並行して申請する
- 交付決定を受けてから、機械・施設を発注する
ソフトの導入は、この流れとは別の日程で進められます。農繁期に申請書類が重ならないよう、ソフトは作付け前の閑散期に申請すると負担が分散します。
当社が支援して採択された25社は、申請から採択まで31〜60日かかりました。ソフトを作付けの開始から使いたいなら、作付けの2か月以上前に申請を出す計算です。採択の前に契約すると対象から外れる点は、機械と同じです。
申請の手順そのもの(GビズIDの取得や必要書類)は、農業の補助金の申請方法と5ステップで解説しています。
まとめ: 初期費用は費目ごとに制度を当てる
農業の初期費用は、就農1年目の平均で755万円、中央値で350万円です。作目による差が大きく、露地野菜なら平均431万円、施設野菜なら平均1,136万円が目安になります。
機械・施設は経営発展支援事業、生活費は経営開始資金、残りは青年等就農資金、ソフトはAI導入補助金と、費目ごとに制度を当ててください。経営開始資金と併用すると、経営発展支援事業の国費上限が250万円に下がる点も計算に入れます。
今日できる一歩は、自分の作目の中央値を表から拾い、投資額の見積もりを1枚にまとめることです。栽培管理や会計のソフトも同時に入れたい場合は、対象になるかを無料相談で確認できます。
