ものづくり補助金は、従業員がいない個人事業主1人の状態では申請できません。23次公募(現行)から賃上げ要件の指標が「従業員1人あたり給与支給総額」に一本化され、従業員がゼロだと目標値そのものを設定できないためです。22次公募までは役員報酬の増額で条件を満たせましたが、この抜け道は23次で塞がれました。本記事では、22次までとの違い、従業員を雇えば申請対象になる条件、個人事業主1人でも今すぐ使える代わりの補助金を2026年8月時点の情報で整理します。
※ 2026年9月時点の情報です。ものづくり補助金は第23次を最後に新事業進出補助金と統合され、後継制度「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の第1回公募が始まっています(応募締切は2026年9月30日18時、第2回は10月30日18時)。本記事は第23次公募の内容を基準にしていますが、今から申請する場合は後継制度が対象になります。
この記事でわかること
- 個人事業主1人がものづくり補助金の対象外になる理由
- 22次公募までとの賃上げ要件の違い
- 従業員を雇えば申請対象になる条件
- 従業員なしでも使える代わりの補助金2つ
ものづくり補助金は個人事業主1人(従業員なし)で申請できるのか
結論として、従業員が1人もいない個人事業主は、23次公募のものづくり補助金に申請できません。基本要件の一つである賃上げ目標を設定する仕組み自体が、従業員の存在を前提にしているためです。
関連する内容を先に押さえるなら、ものづくり補助金2025年度|個人事業主の申請ガイド決定版が参考になります。
関連する内容は事業再構築補助金は個人事業主もいつまで?後継3制度の使い方で整理しています。
私たちは登録支援事業者として相談を受けていますが、「ものづくり補助金は個人事業主でも使える」というネット記事を見て申請しようとしたという声を何度も聞きます。多くは22次公募までの情報を参照しており、23次の変更点を把握していません。申請できる中小企業者の定義そのものは業種によって異なり、詳しい基準はものづくり補助金は資本金オーバーでも対象?中小企業者7区分で解説しています。
この変更はものづくり補助金に限った話ではありません。中小企業向けの主要な補助金は、事業の成長だけでなく従業員の賃金を実際に引き上げているかを重視する設計に切り替わっており、23次公募の指標一本化もその流れに沿った改定です。従業員を雇っていない事業者にとっては、制度が想定する「成長」の形そのものに当てはまらなくなったとも言えます。
23次公募で「従業員1人あたり給与支給総額」に一本化された変更点
22次公募までは「給与支給総額(従業員・役員)」と「1人あたり給与支給総額」のどちらかを選べましたが、23次では従業員1人あたりの指標のみに一本化されました。役員報酬は算定対象から除外されています。

| 項目 | 22次公募まで | 23次公募(現行) |
|---|---|---|
| 賃上げ指標 | 給与支給総額(従業員・役員)/1人あたり | 従業員1人あたり給与支給総額のみ |
| 達成水準 | 年平均2.0%以上 等 | 年平均3.5%以上 |
| 従業員ゼロの扱い | 役員報酬の増額で対応可能だった | 目標値を設定できず申請不可 |
ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金 第23次公募要領概要版では、賃上げ要件が「事業場内最低賃金要件」「給与支給総額の要件」の2本立てに整理され、給与支給総額の要件は「従業員1人あたり給与支給総額を年平均成長率3.5%以上増加」させることと明記されています。この指標に役員報酬は含まれません。
なぜ従業員ゼロだと目標値を設定できないのか
「従業員1人あたり」の計算式は、給与支給総額を従業員数で割って算出するため、分母がゼロだと計算が成立しません。電子申請システム上も、この状態では目標値の入力欄自体を埋められない仕様になっています。
23次の変更点を整理した専門家の解説でも、「従業員数が0人の場合は目標値の設定ができないため本補助金に申請できません」と明記されています。22次までのように役員報酬だけを増やしても、この指標には反映されません。
私も相談の現場で、「開業したばかりで自分1人だが、機械を1台導入したい」という理由でものづくり補助金を検討していた事業者を見てきました。結果として、従業員なしの状態では申請要件そのものを満たせないと分かり、別の制度に切り替えたケースがほとんどです。
従業員を1人雇えば申請対象になる条件
給与支払いの実績がある従業員が1人以上いれば、賃上げ目標を設定でき、申請対象になります。採用予定を書くだけでは不十分で、申請時点で実際に雇用している必要があります。
関連して、社会保険の電子申請義務化|中小企業が対象になる3つの条件もあわせてご確認ください。 従業員の定義を整理した解説によると、常時使用する従業員には、契約期間の定めがなく解雇予告が必要なアルバイトや見習いが含まれます。一方で役員や、解雇予告が不要な短時間パートは従業員から除外されます。
事業場内最低賃金の要件(地域別最低賃金+30円以上)と、付加価値額の要件(年平均3%以上増加)は、従業員の有無にかかわらず適用されます。従業員を雇う場合は、この3つの要件をあわせて満たす計画が必要になります。
例えば、月給20万円(年間240万円)の従業員を1人雇った場合、年3.5%の賃上げ目標は年8.4万円の増額に相当します。金額だけ見ると小さく感じますが、社会保険料の事業主負担分も同時に増えるため、資金計画に織り込んでおく必要があります。給与規程を整えるタイミングとあわせて、社会保険労務士に確認しておくと手戻りを防げます。
家族従業員・専従者は「従業員」としてカウントされるか
青色事業専従者も、解雇予告が必要な雇用形態であれば従業員としてカウントされます。家族だから対象外、という単純な区分ではありません。
| 区分 | 従業員に含まれるか | 判定基準 |
|---|---|---|
| 青色事業専従者・アルバイト | 含まれる(要件を満たす場合) | 解雇予告が必要な雇用形態か |
| 短時間パート | 含まれない | 解雇予告が不要な雇用形態 |
| 事業主本人・役員 | 含まれない | 従業員ではなく経営側の立場 |
家族を専従者として届け出ている個人事業主は、給与を正式に支払っている実態があれば従業員として認められる可能性があります。ただし判定は個別の雇用条件によって変わるため、自己判断で「専従者がいるから大丈夫」と決めつけず、申請前に事務局サポートセンターや商工会に確認するのが安全です。
個人事業主1人がとれる3つの選択肢
個人事業主1人には、IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金・従業員を雇ってものづくり補助金を目指す、の3つの選択肢があります。今すぐ使える制度と、準備してから使う制度に分かれます。

会計ソフトや受発注ソフトなどのITツール導入を検討しているなら、IT導入補助金が候補です。従業員1人あたりの賃上げ要件がなく、開業1年以上などの条件を満たせば個人事業主1人でも申請できます。具体的な対象ソフトや補助率はIT導入補助金の会計ソフト|個人事業主が使える2つの枠と補助率で解説しています。
販路開拓やチラシ・ホームページ制作など、より小規模な投資を考えているなら、小規模事業者持続化補助金が候補になります。商業・サービス業なら従業員5人以下が対象で、個人事業主1人でも要件を満たせます。
補助上限額は通常50万円ですが、インボイス特例や賃金引上げ特例を併用すると最大250万円まで上がります。採択率や申請のポイントは小規模事業者持続化補助金|個人事業主の採択率47.2%と対策にまとめています。
3つ目の選択肢は、従業員を1人雇ってものづくり補助金そのものを目指す道です。機械装置への投資規模が大きく、上限3,000万円クラスの補助金が必要な場合は、この選択肢が唯一の現実解になることもあります。
ものづくり補助金・IT導入補助金・小規模事業者持続化補助金は、名前が似ていても対象者や補助上限額がそれぞれ異なります。投資したい内容が「機械装置」なのか「ソフトウェア」なのか「販路開拓」なのかを先に整理すると、どの制度が使えるかが自然に絞り込めます。
当社は登録支援事業者として、対象ツールの選定から申請書類の作成、採択後の実績報告まで一貫して支援しています。どの制度が自社の投資計画に合うか迷う場合は、無料相談で状況を伝えてください。
従業員を雇ってから申請するまでの4ステップ
従業員を雇う前提でものづくり補助金を目指す場合、雇用契約から電子申請まで4ステップで進みます。採用してすぐ申請できるわけではなく、給与支払いの実績を作る期間が必要です。

雇用契約を結んだら、まず給与を実際に支払い、その実績を賃金台帳や給与明細で示せる状態にします。次に、その従業員の給与を基準に年平均3.5%以上の賃上げ目標を設定し、事業場内最低賃金の要件もあわせて確認します。準備が整ったら、GビズIDを取得したうえで電子申請システムから提出します。
申請全体の流れは制度ごとに大きくは変わらないため、ものづくり補助金は製造業でどう使う?対象経費3つと上限4,000万円で解説している公募から交付までの流れもあわせて確認しておくと、全体像がつかみやすくなります。
個人事業主が陥りやすい失敗3つ
よくある失敗は、古い情報を信じて申請準備を進めること、採用予定だけで申請しようとすること、従業員要件だけ満たして他の要件を見落とすことの3つです。いずれも事前の確認で防げます。
実際の進め方については、ものづくり補助金の給与支給総額とは?個人事業主の計算3ステップにまとめています。
従業員を雇う計画があるだけでは基本要件を満たせません。申請時点で給与支払いの実績がある従業員が必要です。採用が確定してから、実際に1〜2回の給与支払いを経てから申請を検討してください。
1点目は、22次公募までの「役員報酬でも対応できる」という情報をそのまま信じてしまうケースです。2点目は、採用計画を事業計画書に書けば通ると考え、実績のないまま申請してしまうケースです。3点目は、従業員を1人雇って賃上げ要件はクリアできても、事業場内最低賃金や付加価値額の要件を見落としているケースです。
補助金全般に共通する失敗パターンはAI導入補助金の申請に失敗する5つの原因と対策でも整理しています。制度は違っても、書類準備の考え方に重なる部分が多いので参考にしてください。
自社が補助金の対象になるかどうかは、3分の適性診断(無料・8問)で確かめられます。登録は不要で、その場で点数が出ます。
まとめ: 個人事業主1人はまず従業員要件の壁を確認する
ものづくり補助金は、23次公募から賃上げ要件の指標が「従業員1人あたり給与支給総額」に一本化され、従業員がいない個人事業主1人はこの目標値を設定できず、申請そのものができません。22次公募までの「役員報酬で対応できる」という情報は、現行の公募には当てはまらない点に注意してください。
従業員を1人雇い、給与支払いの実績を作れば申請対象になりますが、採用予定を書くだけでは要件を満たせず、実際の雇用と給与支払いが前提です。今すぐ設備投資やITツール導入を検討しているなら、従業員要件のないIT導入補助金や小規模事業者持続化補助金のほうが現実的な選択肢になります。
制度の名称だけで判断せず、自社が今どの要件を満たせる状態かを先に確認することが、遠回りを避ける一番の近道です。将来的に従業員を雇う計画があるなら、ものづくり補助金を見据えて早めに雇用契約と給与支払いの実績を積み上げておく、という選び方もできます。
どの制度が自社の状況に合うかは、従業員の有無だけでなく投資内容によっても変わります。私たちは2020年3月の創業以来、大阪市東成区を拠点に登録支援事業者として申請支援に携わってきました。制度選びに迷う場合は、無料相談で状況を伝えてください。
